歩行について

【歩行】
歩行とは、「足(脚)を持つ動物が行う、足による移動のうち、比較的低速のものを言う。急いで移動する場合は走ると言う。厳密に区別する場合は、すべての足が同時に地面から離れる瞬間を持たない動作」を意味します。

歩行と走行の大きな違いは、歩行はどちらかの脚が必ず地面に着いているのに対して、走行は両脚が浮いている瞬間があるという点です。

【歩行周期】
歩行周期とは、「一方の足が地面について、地面を離れてから再び同じ足が地面につくまで」を周期にしたものである。
歩行周期から歩行を各相に分けて考えれるようになることで、はじめて歩行分析ができるようになる。
歩行周期において立脚相は全体の約60%、遊脚相は約40%をそれぞれ占めるといわれている。

【立脚期】

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①初期接地(IC:Initial Contact)
足が着いた瞬間であり、ヒールロッカーのポジションで開始するのが主な役割である。

②荷重応答期(LR:Loading Response)
足が着いた瞬間〜対側下肢が床から離れるまで。主に初期接地における衝撃を吸収し、荷重を引き継ぎつつ前方動作等の安定性確保を担います。

③立脚中期(MSt:Mid Stance)
対側の足が床から離れる〜支持脚の踵が床から離れる(前足部のみ接地している)まで。支持脚を支点とし、前方動作や下肢・体幹の安定性を確保する。

④立脚終期(TSt:Terminal Stance)
踵が床から離れる〜対側下肢接地(対側のIC)までの動作で、身体を支持脚より前方へ運ぶ。

⑤前遊脚期(PSw:Pre-Swing)
対側下肢が接地〜支持脚のつま先が床から離れるまでの状態を指し、ISwへの準備をする。

【遊脚期】

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①遊脚初期(ISw:Initial Swing)
足とつま先が床から離れる〜両下腿が矢状面で交差するまでの状態を指し、床から対側の足が離れ、支持脚の前へ運ぶように動く。

②遊脚中期(MSw:Mid Swing)
両下腿が矢状面で交差〜対側の下腿が垂直になるまで。対側の脚を前方へ運び、トゥクリアランス(床からつま先の間隔)を確保する。

③遊脚終期(TSw:Terminal Swing)
下腿が垂直になる〜足が接地(IC)するまで。対側の脚の立脚準備に入る。

【歩行周期の相の判断】
歩行周期における立脚相・遊脚相は細分化されており、それぞれで歩行をスムーズに行うための重要な役割がある。仮に立脚周期に問題がある場合、その原因も複数想定できます。

・立脚終期のアライメントに問題がある
・立脚終期の前の初期接地・荷重応答期・立脚中期に問題を抱えている

当然、立脚終期に生まれたトラブルは、遊脚相にも影響を与える。そのため、クライアントの歩行がどの相で問題を起こしているのか、見極めることが重要です。

遊脚期の場合、主に下腿の位置でどの相にあるかが見分けやすい。

・下腿が床から離れ両下腿が交差=ISw
・両下腿交差〜下腿が垂直=MSw
・下腿垂直→足の設置=TSw(IC)

対して、立脚期は対側の脚の状態で相を絞ることができる。

・対側の脚が地面から離れている=単脚支持であり、MStかTStのどちらか
・対側の脚が地面に着いている=両脚支持であり、LR(IC)かPSwのどちらか

ここから更に、2つのパターンそれぞれで相を絞り込む

・単脚支持で、支持脚の踵が床から離れている=TSt
・単脚支持で、支持脚の踵が床に着いている=MSt
・両脚支持で、対側下肢が支持脚より前=PSw
・両脚支持で、対側下肢が支持脚より後=LR(IC)

【歩行周期ごとに働く筋肉】
〇IC
大殿筋、外側広筋、大腿二頭筋、大内転筋、前脛骨筋

〇LR
大殿筋、中殿筋、外側広筋、大腿二頭筋、大内転筋、前脛骨筋

〇MSt
中殿筋、外側広筋、ヒラメ筋、長腓骨筋、短腓骨筋

〇TSt
腸腰筋、腓腹筋、ヒラメ筋、長腓骨筋、短腓骨筋

〇PSw
腸腰筋、大腿直筋、腓腹筋、ヒラメ筋

〇ISw
腸腰筋、大腿二頭筋短頭、前脛骨筋

〇MSw
腸腰筋、大腿二頭筋短頭、前脛骨筋

【歩行・走行で作用する体幹の筋肉の特徴】
秒速1mのややゆっくりとした歩行において、腹直筋の収縮活動はほぼ見られません。
逆に、腹横筋・内閉鎖筋や脊柱起立筋・多裂筋も長時間に渡り収縮している。

秒速2mのやや早いペースの歩行では、断続的に腹直筋の収縮活動が見られる。
腹横筋は収縮が持続し、内閉鎖筋は歩行スピードが速くなると少し抜けるものの、運動中約9割で収縮する。

加えて、外閉鎖筋の収縮時間もやや伸びていたという(多裂筋・脊柱起立筋に大きな変化はない)。

同じ秒速2mでランニング(両足が地面から離れた状態)をすると、腹横筋は常に活動する。
内閉る鎖筋と外閉鎖筋も高い頻度で収縮し、歩行時より多裂筋の収縮頻度が上がっている。

一方、ランニング時は歩行よりの約50%しか腹直筋は働かず、変わりに脊柱起立筋は活動が伸びる。

秒速3mに速度を伸ばしても、腹横筋は活動を継続。
歩行時よりも休息の頻度は伸びたものの、歩行・走行両面で腹横筋が重要ということが分かる。
またこの速度でも、内閉鎖筋・外閉鎖筋の両筋は活発に働いていた。
この傾向は秒速4mまで速度を上げても、ほぼ変化はなかったという。

このことから、歩行・走行において腹横筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、脊柱起立筋、多裂筋が非常に重要ということが分かります。

ウォーキングだけでなく、ランニングが趣味なクライアントに対しては、腹横筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、脊柱起立筋群の使い方を指導することで、記録改善およびケガの防止になる。

逆に、腹直筋はあまり使用されておらず、優先度は低いと言える。